損をしたくないと思うから失敗する。もし家族、恋人がうつになったら04

04 心と体

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以前、夫のうつ病について書きました。

これまでの話はこちらにまとめています↓

 

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今回は、夫がうつ病で休職する前に、私自身の心境の変化についてです。

 

職場でもめた話

あるとき、職場の上司と口論になりました。

私はデータを集計するのが仕事です。そのデータを評価するのが上司でした。私は、評価基準を見直し、さらに私が集計する方法も変更し効率をよくしたいと提案しました。

しかし、上司は却下。「変更したくない、現状維持のまま。」と上司は言いました。私は、今後人員が減り忙しくなるのを予想し(私の休職直前に人員が減ったので予想的中)、自分の担当する業務の効率化を考えていました。上司に何度説明しても、上司は私の提案を却下し現状維持をするように命じました。 

 

私は「現状変えたい、良くしたい」と思い、上司に提案しました。基準を変えるのは面倒な作業だけれど、変えたら業務全体の効率が良くなります。だからこそ私は提案しましたが、上司は私の話を却下するばかりで、私の考えがおかしいのかと不安になりました。私は上司と議論するのをやめ、これ以上の提案を諦めました。

 

暗い気持ちのまま、自分のデスクに戻ると、ふと頭のなかに大学の講義で習った経済学の用語が浮かびました。 

『囚人のジレンマ』

 

囚人のジレンマとは

囚人のジレンマとは、例えば、ある事件について、共犯Aと共犯Bの2人います。それぞれA、Bを引き離し、それぞれ取り調べすることにします。

もし、A、Bどちらか1人が自白し、もう一方が自白しない場合、自白した方は無罪で、自白しない方は懲役10年だとします。
また2人共自白しない場合は懲役2年だとします。それから、2人共自白した場合は懲役5年とします。

AB双方が自白しなければ懲役が軽めの2年になりますが、「片方が自白するかもしれない。もしあいつだけ自白したら、自分は懲役10年になり一番長くなるから嫌だ」と考えたら、AもBも『自白する』ことを選びます。

囚人のジレンマとは、場合によって人は一番損をしないように行動し、最大の利益を得られないことがあるという話です。

 

 

ざっくりした説明ですみません。詳しくはネットや書籍で囚人のジレンマ、ナッシュ均衡、ミクロ経済学について調べてみてください。

 

損をしないのに、心は晴れない 

人は利益を増やすよりも損を減らすように行動することがあります。上司は、自分の労力が増えることが嫌で、私の提案を却下し現状維持を選択しました。私は多少は上司に反対されることは予想していましたが、反対され続けて悲しくなり、さらに一人で職場で騒いでいるのが恥ずかしくなり、もう傷つきたくなくて提案することを諦めました。

 

「上司の言う通り現状を維持し面倒なことをやめよう」と決めても、なぜか私の気持ちは晴れないままでした。面倒なことはしない、損しないのだから私は楽になるはずなのに、私の気持ちはすっきりしないまま。私はなぜ気持ちが沈んでいるのだろうかと疑問に思いました。そして、そもそも損って何だろうか?と考えました。

 

先ほどの囚人のジレンマの例では、囚人AB双方に『懲役は長いより短いほうが良い』という大前提があります。しかし、実際の世の中には刑務所に入りたがる人間もいます。年の暮れになると、寒くて寝るところに困り食べるものにも困り無銭飲食・万引きなどをわざわざして捕まる人がいます。また、刑務所暮らしが長い人にとっては、服役を終えて外で働こうとしても生活に困窮し再び刑務所に戻ってしまう人がいます。人によっては懲役自体が損にならないことがあります。

囚人のジレンマでは人は損をしないように行動することがあることを証明しています。でも、何を損とするか、そしてそれがどの程度の損になるかは人それぞれです。刑務所に入りたがる人間が実在するのだから、囚人のジレンマの「懲役が少ないほうが良い」という前提がおかしいのではないかと思いました。

 

私にとっての損失と、他人にとっての損失が違います。損か得か、私たちそれぞれが持つ心のモノサシは異なります。これが価値観です。人それぞれ価値観が違うのは当然です。とても当たり前のことだけれど、私は忘れていました。上司が何を損とするかは上司の勝手です。上司にいくら訴えても上司は変わることはないと判断し、自分の担当業務に集中することにしました。

 

それでも、交渉を諦めたことについて少し残念な気持ちがありました。目を閉じ、自分の気持ちをゆっくり考えると「もっとやりたい」「本当はあれをしたかった」と業務を改善したいという思いがまだありました。 

そこで、気がつきました。もしかして、上司が私の提案に合意し業務が改善されたことで得られる利益を、まだ私は忘れていないのです。もし業務改善したら職場環境が良くなると期待していて、その期待していた未来が叶わなかったことを惜しいと感じていることに気がつきました。

ということは、期待した利益が得られなかったら、期待した利益の分も損したと感じるということなのか?と考えました。

損をしないように行動しても、期待していた利益を忘れないために、とても損した気分になる。もう傷つかないように否定されないように上司と話すことをやめて、これ以上損をしないように行動したのにも関わらず、いつまでも私の心が晴れないのは、私の提案に賛成してくれるだろうと期待していたからです。期待していた分だけ悲しかったのです。

 

市場利益最大化

マクロ経済学では、市場経済は需要と供給で成り立つといいます。モノ・サービスを売る人がいて、それを欲しいと思い購入する人がいます。その需要と供給が一致が価格です。

さらに市場経済は、各々が得意なことを供給することが市場全体の利益が最大化することを証明します。市場経済は利益を多くするように動くはずです。

しかし、人々は利益を最大化することより損失を最小化するように行動することもあります。それを証明したのが、ミクロ経済学の囚人のジレンマの例です。囚人のジレンマは、市場の失敗の一例です。 

 

市場の失敗。損しないように行動しても、結局、大損した気分になるのならば、本当に失敗です。それが嫌ならば、利益を求め続けたほうがいいのではないか。ミクロ経済学の市場の失敗は、マクロ経済学で解決する。自分の得意なことで、利益を求める。これが生きるヒントになるのではないかと思いました。

 

このようなことを数日考えていました。あまりに深く考えていたら、職場の上司のことなんてどうでもよくなりました。ただ業務に集中することにしました。

 

それに、当時の私は、職場のことより夫のことが気がかりでした。その少し前に夫は昇進し給料も上がりました。端から見たら幸せな家族です。それでも夫は不満を抱え、上司と折り合いが悪いようで、胃腸が悪くなり痩せました。胃潰瘍、胃がんか、うつ病の再発かもしれないと感じていました。

また、夫が私に「俺のことを理解してくれない」「俺の話を聞いてくれない」「おまえは全然できていない」とよく言うようになり喧嘩になっていました。交際しているときからそのようなことを夫は言ってました。夫が何年も同じように私に文句をいうので、私は夫を怒らせないようにとばかり考えていました。怒らせたくないから気をつかっているつもりでも結局は夫は怒り「おまえは全然だめ」と言われ、悲しかったです。

 

傷つきたくないという想いで夫と接していました。でも、それは違うのかもしれない。私は、大好きな夫と一緒にいたい、仲良くしたい。これが私の一番の利益です。私は利益を求めよう。日に日に病んでいく夫を見ながら、私はそう決めました。